そけいヘルニア(脱腸)についてのお話(第一回目)
今回から2回にわたりそけいヘルニア(脱腸)について、広津外科・消化器外科医院(久留米市原古賀町)の広津順先生にお話を聞いてきました。
院長 広津順
そけいヘルニアとは?
「そけいヘルニア」といってもピンと来ない方が多いと思います。
首や腰のヘルニアはご存知の方は多いと思いますが、これは椎間板ヘルニアといって、頸椎や腰椎の椎体の間の椎間板が飛び出し神経を圧迫することによって起こる病気です。
このように正常な状態から何かが飛び出している状態のことを「ヘルニア」といいます。そけい部は、下腹~足の付け根の部分のことをいいます。ですので、「そけいヘルニア」とは下腹~足の付け根の部分のヘルニアということです。
弱くなった筋膜の隙間から腸などの内臓が皮膚の下に出てくる病気です。一般的には、「脱腸(だっちょう)」と呼ばれる病気です。
そけいヘルニアの歴史
この病気は、直立歩行を始めた人類の歴史とともに出現したものです。
そけいヘルニアの最も古い記録は紀元前1552年頃のエジプトの歴史書に記載があります。古代エジプト時代の治療は手で押さえて戻し、包帯固定がメインだったようですが、Merneptah王(紀元前1224~1214)のミイラには陰嚢が切り離された大きな手術痕が残されているらしく、当時からそけいヘルニアに対して外科手術が行われていた可能性があります。
ローマのCornelius Celsus(紀元前20~後45)はヒポクラテス以降のギリシャ医学やアレクサンドリア医学をまとめて「De Medicina」という医学書を書いています。この本の中に初めてそけいヘルニアの外科治療に関する記述がみられることから、「ヘルニア外科の父」と言われるようになりました。
当時の治療の中心はやはり、整復と圧迫でしたが、進行したヘルニアに対しては切開して切除していたようです。
しかし、傷口はそのままで自然に治るのを期待し、大きい場合は熱した鉄で焼いていた(烙鉄焼灼)ようです。傷口の焼灼についてはなんと1500年代まで続けられ、現在の手術法の原型ができる19世紀になるまで約1800年間も続いていたそうです。今では信じられないことですが、先人たちの努力があり現在の治療法があるのですね。
次回は具体的な症状をお聞かせ頂きます。
投稿日:2013年10月22日(火)